インターネットIPv6化に対する冷笑的反応について
・ひろゆき&夏野コンビが語る「日本のITよ、自信を持て」 (5/6) - ITmedia NEWS
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/12/news098_5.html
ひろゆき まぁ、ネットの仕組み自体は変わってないですし。どうせIPv6にならないし。
(会場爆笑)
ひろゆき ごめんなさい。
(会場から拍手)
Interopで最大規模の聴衆の耳目を集めた夏野氏とひろゆき氏のトークセッションで、このようなやりとりがあったそうです。確かにその規模は飛躍的に拡大したとはいえ、インターネットのトランスポートは相変わらずTCP/IP(v4)で、IPレイヤのルーティングプロトコルも同じです。何も変わってないが故に、私のような10年選手でも最前線のネットワーク技術職にありつけるという恩恵はあります。それはおいといて。
総務省およびインターネットの偉い人は、IPv4は早晩枯渇すると言って譲りません。
・IPv4の枯渇は2010~2012年、IPv6導入に向けた課題とは
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2009/05/28/23583.html
「IPv4アドレスの在庫が本当に無くなるのかという質問は良く受けるが、やはり『はい』と言わざるを得ない」として、IPv4アドレスの在庫は2010年から2012年までに無くなる見込みだと説明。
2012年というとあとたったの3年です。この間にIPv4が枯渇し、本当に以降のIPv4グローバルアドレスの割り当てができなくなるとすると、IPv6化への道を選択するしかなくなるのですが、そうなるまでにはいくつか乗り越えなければならないハードルがあります。素人の思いつきだけでも以下が挙げられます。
- すべてのインターネットを構成するルータのデュアルスタック化
- 基幹ルータのIPv4とIPv6のフルルートをやりとり出来るだけの性能向上
- すべてのインターネットを構成するホストのデュアルスタック化
- すべてのインターネットを構成するホストのIPv6アドレス付与
- すべてのインターネットを構成するホストのIPv6アドレス解決のためのDNSサーバへのレコード登録(AAAA、PTR、MX、NS、...)
- すべてのインターネットにアクセスするクライアントのデュアルスタック化(NDPによる自動アドレス生成、DHCPv6等によるDNSサーバアドレス情報取得、IPv6トランスポートでのインターネットアクセスなど)
これらが2012年までに達成されないと、ISPがIPv6インターネット接続を提供したとしても、インターネットのすべてのサービスを利用することは困難、というかまず無理です。すべてのホストにIPv6アドレスが付与されないとルーティングの対象にすらなりませんし、ルータがデュアルスタック化されていないとルーティングができません。基幹ルータは、IPv6のルーティング情報は経路の集約にある程度成功しているとはいえ、当分はIPv4のルーティング情報も制御する必要があるため、今まで以上の性能が要求されます。
サーバソフトについては、Apacheは2.0からIPv6に対応していますが、メールサーバについてはSendmailが8.10以降対応、Postfixは2.2以降対応、qmailはパッチを当ててリビルドが必要です。これ以上古いメールサーバはそもそもIPv6に対応していません。他のサーバについてもIPv6対応した以降のバージョンを使用する必要があります。もちろんホストのOSはIPv6スタックを積んでいる必要があります。インターネット上のサーバは当然古くから安定動作している系もあるでしょうから、そう簡単にIPv6対応してくれと言われても厳しいものがあると思います。
クライアントについてはどうでしょうか。Windows XPではipv6コマンドがあり、ユーザがIPv6スタックを有効にしてやる必要があります。ただこれは単にスタックと多少のユーティリティを提供するのみです。名前解決のためのDNSクエリはIPv4でしか投げられないため、Pure IPv6のネットワークにリーチできません。Windows Workgroupの名前解決であるNETBIOS over TCP/IPもIPv6には対応していません。VistaはデフォルトでIPv6に対応しており、先のDNS問題もクリアしていて、NETBIOSについてもLLTDで代替できます。Windows 7も基本的にはVistaのIPv6対応機能を引き継いでいると思われますが、世の中の多くのクライアントはまだXPや2000が存在するでしょうから、これはIPv6関係者にとっては頭の痛い話だと思います。ちなみに、Windows 2000はIPv6モジュールをインストールする必要がありますが、多分もう配布されていません。
Interopに聴講にくる方々は当然上記のような事情は分かっているため、インターネットなんてそう簡単にIPv6にならないことは理解されていると思います。なので、我が意を得たりと冒頭のような無邪気な反応が返ってきてしまうのだと思います。なので、IPv6化はお役所の暴走かとも思われるわけですが、決してそうではありません。Kameプロジェクトをはじめ、日本は早くからIPv6の実装に努めてきましたし、国内主要キャリア、NTT、KDDI、ソフトバンクBBはもう後戻りはできないところまでIPv6への設備投資を行っています。これは総務省およびインターネットの偉い人の悲願でもありますので、両者は表向きは蜜月関係にあるようです。
そして先日、ついにNTT東西からIPv6インターネット接続機能提供の認可申請が出されました。
・NTT、NGNにおけるIPv6接続仕様を決定--総務相に認可を申請 - CNET Japan
http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20393480,00.htm
NTT東日本、西日本は5月19日、次世代ネットワーク(NGN)におけるIPv6インターネット接続機能の提供について、総務大臣に接続約款変更の認可申請をしたと発表した。
2012年になっても多分日本以外のインターネットはまだまだIPv4しか通らない部分がほとんどだったとしても、Winnyが使えなくなってダウソ厨涙目になったとしても、お父さんがエロサイトを見ようとアメリカのサーバにアクセスしようとしてもAAAAレコードが引けなくて悔しがったとしても、残念ながらインターネットIPv6化計画は止まりません。Interopの一参加者個々人はこのうねりに対して無力です。かといって、ニヒリスティックになるのは生産的な態度ではありません。ここは無理を承知で腹を括ってIPv6、やるしかないんじゃないですかね。またガラパゴスとか言われそうですが。