コンパクトレンズ

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私的録音録画補償金とダビング10をめぐる騒動について思う

・「ダビング10を人質になどしていない」「メーカーは“ちゃぶ台返し”だ」 権利者団体が会見
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0805/29/news114.html


私は法律をかじったこともないのですが、私的録音録画補償金の起源となる著作権法を参照してみます。

著作権法 第三十条第二項
 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。


政令とは「著作権法施行令」のことで、「第一章 私的録音録画補償金に係る特定機器及び特定記録媒体」で当該記憶媒体が指定されています。ここでポイントなのは「HDDやフラッシュメモリ私的録音録画補償金に係る特定機器に指定されていない」ということです。すなわち、デジタル音楽プレイヤーやHDDレコーダを私的録音録画補償金の対象にするためにはHDD、フラッシュメモリ、メモリカードを新たに「著作権法施行令」で対象記憶媒体として制定する必要があります。


 ここで問題なのがHDD等の記憶媒体は私的録音録画以外にも利用される汎用記憶媒体であるということです。政令で指定しようものなら、著作権法 第百四条の二に該当する「指定管理団体」はあらゆるデジタル機器から補償金を徴収することができるようになります。
 例えばPCは音楽CDからデータを抽出して外部記憶媒体に保存することができます。これは「デジタル方式の録音」と解釈できると思います。なぜなら、著作権法 第三十条は私的複製について定めた条項で、データのコピーは私的複製にあたり、第三十条第二項の録音録画は私的複製の文脈で用いられているからです。ですので、PCのHDDは補償金の対象となり得ます。
 しかし、HDDを補償金の対象としてHDDの価格に補償金を上乗せするとなれば、これは明らかに補償金の範疇を逸脱した暴挙です。


 一方で、上で述べた通りPCに限らずあらゆるデジタルメディアレコーダー/プレイヤーにおけるオリジナルソースからのデジタルコピーは私的複製の意味での録音録画に該当すると思います。ですから、「指定管理団体」がデジタル録音録画機器への補償金課金をしたいという考えは自然です。ただ、それは現行著作権法で定める補償金の対象外です。


 さて、ここで私が指摘したいのは、デジタル録音録画機器への補償金課金をするならば、第三十条を、記録媒体を指定するのではなく録音録画機器を指定するよう改正するか、補償金の条項を撤廃して著作権者とユーザが私的コピーについて、著作権者への還元を含めた新たなルール作りをするのが妥当ではないか、ということです。デジタル録音録画機器が普及してきたから慌てて課金対象を政令指定の範囲を越えて広げるのは筋違いだと思います。


 今回たまたまデジタル放送のコピーワンス問題がトリガになって話が拗れているように見えますが、こんな姑息なやり方でなし崩し的に補償金の範囲を拡大するのは汚いと言われても仕方ないように思います。行政も急速なデジタル化が進む中、著作権に関わる問題が顕在化するのは随分前から分かっていたのに、事態を放置した挙句に上っ面の利権調停でやり過ごそうとしている。議論する時間は十分あったはずなのに、この人たちがやってきたことは利権争いの落としどころを探り合っていただけだったのです。そうでなければ「ちゃぶ台返し」なんて言葉が出てくるはずがない。


元記事に戻ります。

 「補償金は、莫大な利益を上げているメーカーが、その一部を権利者に還元させようとするもの。現在、保証金は消費者が負担するという建前になっているが、事実上メーカーが負担しており、メーカーもそう自覚している」

メーカはそう自覚してるかも知れませんが、消費者は(少なくとも私は)消費者が負担していると思っています。ですから、

「補償金制度を廃止し、私的複製も権利者とユーザー間の契約で処理するとすれば、メーカーの負担はゼロになり、その分を消費者のみなさんが支払うことになる。本当にそれでいいのか」

こういう選択肢もアリだと思っています。私的複製権のための上乗せがいくらになろうと価値ある著作物には相応の対価が支払われる。それがなぜ消費者や権利者にとって良くないことなのか? そうなった時に本当に困るのは誰なんでしょうね。