コンパクトレンズ

コンパクトで高性能で多機能を求めて

うつ病―まだ語られていない真実

うつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書)

うつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書)

ヘミングウェイが猟銃自殺したことは知っていたけれど、彼が晩年うつ病に冒されていく過程までは詳しく知りませんでした。うつ病には内因性(生得的である時突然発症)と反応性(心因性ストレスがトリガとなる)があり、前者はともかく後者は誰にでも罹患の可能性があり、気分変調症(従来の神経症)に分類される比較的症状の軽いものでも自殺する場合もあるそうです。


 さて本題のまだ語られていない真実ですが、一つはうつ病は自殺に繋がる非常に深刻な病気であるということ。心のかぜやプチうつなどの軽々しい表現が甚くお気に召さないようですが、まあ軽い抑うつから大うつに発展することも考えられ、早めの医療機関での診察を促す意味では自殺の歯止めに一役買っていると思うので、それはそれでいいのではないでしょうか。


 もう一つ、うつ病と自殺の相関が非常に高いこと、日本は他の先進国に比べて失業率比での自殺率が突出して高いことです。ただこれも最近ではそう新規なデータではないと思います。また、著者が特に指摘されているのは日本人の「悪人情」という表現です。これは慣習になじめない人を強力に排除する日本社会?への批判として書かれているわけですが、それもあまり目新しい論説には感じませんでした(否定ではなく、むしろ肯定)。これはうつ病を患った本人の被害妄想も大いに拍車をかけるところではありますが、感情的な報道が増えているように思える今日この頃、世間は一般から外れた人に対して厳しく接する傾向にあるように思います。


 規範を犯した者に対してはまあ仕方ない面もありますが、本来寛容であるべき弱者に対して鬱屈した感情を向けてしまうほど、心に余裕を失った人が増えているのかもしれません。自分の限界まで努力することと心の余裕を失うほど頑張ることはイコールではないことに気づいたのは最近です。自戒を込めて。